学生航空連盟が70周年を迎えたことに対し、心よりお祝いを申し上げます。これまで数多くの空の仲間を輩出することにより、航空レジャー、航空スポーツの発展に寄与されているとともに、御連盟で培った知識、技量、興味を元にプロとして各種航空業界で活躍する数多くの関係者を送り出されており、その貢献に対して改めて感謝申し上げる次第です。私もその恩恵を受けた者の一人であり、自己紹介を兼ねて経歴等をお話しさせていただきます。

 1989年から3年間、東海大学附属相模高等学校の航空部として御連盟でお世話になりました。栗橋滑空場で空を飛ぶ楽しさを教わるとともに、知識、技量を含め様々な事を学びました。滑空機において技量の基礎を築いていただいたおかげで、今日に至るまでどの機種であっても、またどのような環境においても着陸で苦労するということはありませんでした。若くして身につけさせて頂いた操縦感覚にとても感謝しております。

空を飛ぶことに魅了されたまま、高校卒業後は航空自衛隊の航空学生として入隊し、約23年間航空自衛隊で勤務いたしました。主な搭乗機種としてはF-15J(イーグル)戦闘機、T-4ジェット練習機及びT-4ブルーインパルス、操縦教官としてT-7ターボプロップ練習機に乗り、空の守り、広報活動、後進操縦者の育成を行なってまいりました。そして2016年42歳の時に機会を頂き、一定年齢以上の操縦士を民間航空会社で活用する制度、いわゆる「割愛」という国の制度を利用して防衛省から民間航空会社へと転職いたしました。現在は関西国際空港を拠点とするLCCの「ピーチ・アヴィエーション」においてエアバスA320の操縦士として乗務しております。

 今回は依頼により私の職歴にあるT-4ブルーインパルスについて少しお話しをさせて頂きたいと思います。私は2003年から2005年までの3年間、宮城県松島基地に所属する第11飛行隊、通称ブルーインパルスに3番機展示飛行操縦士として勤務していました。ブルーインパルスと言えばコロナ禍における医療従事者に対する東京上空での編隊飛行や東京2020において東京上空に五輪を描いたことが皆様の記憶に新しいのではないかと思います。最近ではインターネットやSNSの発達によりブルーインパルスの動画などが簡単に見ることができる便利な世の中になっているので、宙返り、横転、背面、編隊等の曲技飛行についてはそちらで見ていただいた方が良いかと思いますのでその説明はここでは割愛いたしますが、今回はその中でも東京2020の「五輪」のような、いわゆる「描き物」について説明しようと思います。皆様ご存知の通り、東京オリンピックでブルーインパルスが五輪をスモークで描くのは今回で2回目ですが、5輪の描き方は1964年のF-86ブルーインパルスによるものと2020年のT-4ブルーインパルスによるものとで異なるそうです。

(興味のある方は「https://dailydefense.jp/_ct/17466634」に詳しく掲載されています。)

東京2020の5輪は「さくら」という既存の演技をベースに作られたそうです。この「さくら」は私が在籍していた2004年に航空自衛隊創立50周年に合わせて開発され、披露してきた演技であり、とても思い出深いものがあります。この演技は6機が180度方向転換を行う間に各機毎に「さくら」を描くための所定の隊形に変換し、隊形変換後1番機の号令により、全機が同時に250kt/3.5Gでスモークを出しながら旋回して円を描き、その円の重なりにより桜の花びらを上空に描くというものです。250kt/3.5Gを維持することは戦闘機操縦者であれば誰でもできる簡単な事なのですが、この時の隊形を作る過程がとても難しく、開発時には色々試行錯誤してようやく形になったとても苦労して完成した演技の一つでありました。今回の東京2020の五輪を開発するにあたり当該隊員達も隊形変換にはとても苦労したのではないかと思われます。ちなみに限定的ながら今回カラースモークを使用するのは23年ぶりであり、隊形変換の中核となる1番機はスモークを出さないで旋回していたそうです。(描き方の違いは下図参照)

東京1964の描き方

東京2020の描き方

さくらの描き方

その他の描き物として空に大きな星を描く「スタークロス」や大きなハートを描いてその中心に矢が突き抜ける「キューピット」など様々な演技があります。これらの演技は毎回見られる訳ではありません。ブルーインパルスの演技構成は雲底の高さ等の気象条件により5つの区分があり、快晴の場合は「スタークロス」や「キューピット」が見られますが「さくら」はその演技構成には入りません。(イベント等により例外あり)そのため天気が悪い時にしか見ることができない演技も多数あるので、それを楽しみに毎年各地の航空祭に足を運んでくださる熱心なファンの方も多くいらっしゃいます。それではここで「スタークロス」はどのように描くか考えてみてください。ご想像の通り5つの方向から進入してきますが、その隊形を作るにはどうするのか分かりますか?・・・・・・・・実際に航空祭に足を運んでみたりYou Tubeの動画を見てみたりして、ブルーインパルスの裏側を見るのも楽しいかもしれませんね。現在コロナ禍で航空祭等は約2年間実施できていません。コロナから復活した際には是非、航空祭に足を運んで頂いて実際に見て頂けたらと思います。そのライブでの迫力と感動は動画とは比べ物にならないと思います。

スタークロス

キューピット

 今後とも学生航空連盟出身者として安全運航を心がけることは勿論のこと、更なる航空業界の発展に寄与できるよう微力ではございますが尽力してまいります。また、コロナが落ち着いた際には初心を忘れぬよう、再びグライダーに乗りたいと思っておりますので、その時はご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。私は航空機の運航に関わる様々なライセンスを保有していますが、空の道を志すきっかけとなった滑空機のライセンスはまだ未保有なのでそちらもいつかは挑戦したいと思いますので、この場を借りて、空の道で切磋琢磨した同級生の小池 輝 国土交通省試験官によろしくお伝えしたいと思います。(笑)

学生航空連盟の更なる発展を関西の空より祈念いたします。

祈飛行安全