1,000km flight challenge at Corowa

  • ソアリングへの復帰

 1970年、当時高校2年生だった私は、栗橋滑空場で飛び始め、6年間でグライダーの基礎を教えていただき、H-32によるサーマルでの5時間滞空、栗橋-霞ヶ浦間の50kmクロスカントリーを経験しました。

その後、ナロマインでFAI 300kmを経験し、息子の誕生を契機にしばらくグライダー界から離れておりました。

 そして、息子が大学生となり、気がつくと大学の航空部に入部し、ソロフライトの後、ナロマインに行きたいと言って来たので、妻のアドバイスもあり、私も補助で同行した事が、ソアリングへの復帰のきっかけになりました。

帰国後、関宿、小山両滑空場を訪問して、約18年間のブランクを感じつつ、日本のソアリング界の現状に衝撃を受けたことを思い出します。

 その衝撃とは、個人あるいは仲間でグライダーを所有して、クロスカントリーソアリングを楽しんでいた事でした。私が夢に描いた現実!!

 早速、中古機のSZD-55-1(下記、図1参照)を購入して、滑空場選びに奔走し、自宅から近く、滑翔条件が良いと思われる小山滑空場で飛ぶ事にしました。

 主に週末、年間総飛行時間は100時間程度飛べる好条件の中、ブランクを埋めつつ、周りの皆さんに追いつけるよう楽しく、かつ貪欲に飛んでいました。

図1
  • 新たなステップ

 小山滑空場が閉鎖せざるを得なくなり、新たな活動拠点を探す事になった私は、思い切ってオーストラリアでしばらく飛ぶ決心をしました。候補地は、ナロマイン、コロワ、ベナラ、タクモール、ワイケリーと選択肢は豊富でした。

 検討項目は、町の大きさ、宿泊モーテルの多さ、主要空港からの距離等のインフラ、そして、レンタルすることができるグライダーの性能、価格、水バラスト給水設備、過去のフライト実績、アウトランディング場の制約の少なさ等々。

 私にとってもう一つ忘れてはならないのは、ゴルフ場です。10日間の滞在で天候等の理由によりフライトが出来ない時、体調管理、リラクゼーション、フライト仲間とのコミュニケーションを図るためには、ゴルフが一石三鳥です。

 結果として、一番魅力的だったのが、コロワでした。

  • 突然の連絡

 既にブッキングしておいたコロワから、突然のメール連絡がありました。

内容は、「コロワに来られても100%グライダーのレンタル=チェックアウトは、保証できるものではありません。今、キャンセルなら予約金を全額返却致します。」とのことでした。

 あまりに不自然な内容で、しかも突然だったので、直接電話しました。

すると、過去に、日本人グループが来た際、チェックフライトにパスをせず、別途トレーニングカリキュラムを組み、フライトトレーニングまで実施したが、最終的に金銭で揉めたので、日本人は受け入れたくないといったニュアンスでした。勿論、チェックフライトの可否については、技術的な問題なのでその結果には同意する旨を伝えて、行くことにしました。

 そんな経緯があったので、自信を持ってチェックフライトに対応する覚悟でコロワに向かいました。現地ではオーナーと常連のヨーロッパ人から信頼を得るまで、少し気を遣いました。

  • コロワでのフライトサマリー

 幸いチェックフライトにパスし、尚且つ、それ以降の年度におけるノーチェックフライトの信頼を得ることができました。

 

 結果、2007年-2016年(2015年は除く。)の9年間の総飛行距離32,456km、飛行回数64回、1フライト平均距離507kmになりました。

(2015年は未渡航で、2014年のStonefield = Waikerieの西80kmに行った分もデータに含めてあります。)

*主なフライト

2007年 FAI 500km達成 平均速度93.46km/h

2008年 FAI 750km達成 平均速度101.38km/h

2009年 飛行距離988.32km 平均速度116.19km/h

  • 1,000km challenge

*フライトプランニング

 日没1時間前のゴールを想定し、スタート予想時間と予想平均速度を加味して実現可能なフライトプランの作成(判断基準)をしておりました。

例えば、19:30にゴール目標の場合、約10:30スタートで9時間のフライトを前提にプランを作成。

 想定の平均上昇率に合わせた水バラストの搭載。全てのフライトにおいて、水バラストを搭載して飛行しました。(給水設備は、滑空場選びの項目にも挙げた重要なポイントです。何故なら機体の準備段階で、最も混み合うからです。)

 ローンチ開始が、3,000ft迄上昇可能な地上温度に達した時点なので、10:30分スタートは、現実的にかなりハードルが高かったです。したがって、スタートが遅れる程、エンルートの早い平均速度が要求されるので、ブリーフィング時にサーマルの強さ、ブレイクスルー予想時間、積雲発生エリアの確認が重要なポイントでした。

 ドライサーマルで平均速度100km/h以上出すのは、かなり難しくなるため、クラウドストリートを使う事、サーマルのブレイクスルーと強さに合わせたサーマル間スピード設定、次のサーマル旋回ミニマム値の想定をして、フライトするようにしていました。

*集中力とメンタル

 条件の良い日は、2-3日続く事を想定し、毎日10時間飛ぶ事が可能なメンタルとできるだけエネルギーを消耗しないフライトを常に心がけておりました。

 高度の高低、サーマルの強弱にはある程度、鈍感力を持ち、できるだけ現状を受け入れて平常心を保つよう努力していました。また、早めのアウトランディングエリアを想定する事によって、心に余裕を持つようにしていました。

 サークリングに関しては、コアだけに集中し、滑りに関してはセンシティブにならないよう努めていました。

10時間のフライトであれば、サークリング時間50%で5時間は、グルグル回っている事になる訳ですから・・・

 一つの安定した旋回方法として、ホリカウス解説で有名なサーマリング時に若干内滑り旋回を入れた旋回を導入しています。特に、Ventus 2cxtのような翼がスイープバック、2段上反角の場合、有効な気がします。

*食事、トイレ、服装

 食事は、当初、グラノラバー、カロリーメイトを持参しましたが、空気が乾燥した環境では、喉の通りが悪く、結論として、おにぎりと保冷剤入りのランチバッグに入れた季節のフルーツが最高でした。お米は、現地でも売っていますが日本から持参し、現地で購入した電子レンジ用ライスクッカーを毎回持参しました。

 上空で尿意があった場合、パイプ経由で外に流すことに抵抗があった私は、携帯トイレパックを常に2-3個、機体に積んでおきました。

 服装は、肌に直射日光が当たらないよう長袖を着用していました。半袖は、かなりエネギーロスになる感じです。(ほぼ毎日の長時間フライトでは、このコクピット居住環境と上記のメンタル管理が大変重要になると思います。)

1,000kmフライト トライ 当日 (図2、機体 Ventus 2cxt 18m)

 平均速度を常に留意して、フライトプランの実行、見直し、変更を行なっていました。

 スタートからブレイクスルーするまでは平均速度85km/h位のスローペースでしたが、1時間30分後には積雲、その後ストリートも発生し2ndレグ迄順調な飛行でした。

ブレイク後の2ndレグ迄は平均速度120km/h程出ていたと思います。

 途中、フライトコンピュータの調子が悪くなり、平均速度が表示されなくなり不安でした。何せ1st ターンポイントが407kmも離れた所だったので・・・

 順調だったのは2ndレグまでで、第2旋回点ではブッシュファイヤーが発生していました。煙の層が第3レグの半分程を覆っており、その煙の地表は日射が当たっていなかったので、第2旋回点通過を諦めました(軌跡は、下記の図3参照)。

 飛行前のフライトプランはFAI 1,000kmでしたが2ndレグ以降、慣れていないOLC多角形フライトプランに飛行中上手く変更出来ず、距離が足りませんでした。

 結果、飛行距離988km 平均速度116km/h サークリング25% グライド75% (いかに旋回が少なかったフライトか) 平均上昇率2.62m/sはスーパーDAYでした。

フライトの詳細は下記のOLCデータからも見られます。

https://www.onlinecontest.org/olc-3.0/gliding/flightinfo.html?dsId=711802

 残念ながらブッシュファイヤーが多い年はグライダーにとって条件がいいようです。

 その後、2016年迄フライトしましたが、再びパラダイスは訪れませんでした。

  • 後記

『滑空記章』

 グライダーの世界に身を置いて感心させられている事に滑空記章があります。私なりの理解を記します。

*5時間滞空+50km距離飛行

 5時間滞空はこれからクロスカントリーを行う上で、基本となるサーマルの発見とセンタリングの習得。50Km飛行は、これまで紐付きで滑空場の周辺を飛行していたのを、自ら紐を切って他のエリアに飛び出すメンタルと決断が要求されました。(私のグライダー人生でいちばん緊張した瞬間かもしれない。)

*300km距離飛行

 出発地点に戻って来るナビゲーション知識。平均速度は50km/h程度でも十分可能である。現在はGPS +フライトコンピュータが一般的なので、大変便利ですが、私が飛んだ40年以上前は地図とコンパスのみで何度かロスポジしました。

*500km距離飛行

 平均速度80km/h程度が必要なので、サーマルのセレクション、ベストな飛行ルートの選択が必要になって来ました。

*750km距離飛行

 平均速度100km/h程度が必要な領域に入って来るので、時間の経過と共に変化する平均上昇率に合わせたサーマルセレクション、ギアチェンジ=インターサーマル間のスピードセットが要求されました。

*1,000km距離飛行

 1日10時間程度飛行可能なコンディション、あるいはより早い平均速度で10時間以下で飛べる技術。そのためには、気象の読みが重要な課題であるかもしれません。

以上、それぞれの滑空記章に要求される事が、かなり明確に考えられている印象で驚かされます。

『時代の変遷』

“Competing in gliders”の書に時代の変遷を上手くまとめた文章がありましたので紹介します。

*1950年中期迄はサーマルセンタリング世代で滞空時間を誇っていた時代。

*1950-60年代はマクレデイ理論世代でサーマル間、ファイナルグライドスピード設定を重要視した時代。

*1970年代に入りドルフィンフライト理論又はサーマルセレクションの時代。併せて機体の構造と素材の革新、翼型の変更、水バラスト導入による高翼面荷重化によって進化した時代。

*1980年から現在に至るロンググライド飛行又は高エナジーライン採り。マクレデイ理論の否定ではないが、計算上の理論ではない考え方。サークリング時間は平均速度を落とす方向なので出来るだけサークリング時間を減らす哲学。

 最後に、栗橋で基本を学び、小山でソアリングの経験を積み、コロワで充分クロスカントリーフライトが出来て幸せでした。総飛行時間もやっと1,000時間を超えて良い区切りになりました。

 いずれにしても、飛べる場所とインストラクター、スタッフ、仲間が居て初めて可能になるので、多くの皆様に大変感謝しております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

2021年12月

川村正幸